晒  女
文化十年(1813)六月
作詞 二代目 桜田治助
作曲 四代目 杵屋六三郎
[前弾]〈二上り〉 
留めて見よなら 菜種に胡蝶 梅に鴬松の雪 さては姉女が袖袂 しょんがいな 
色気白歯の團十郎娘 強い強いと名にふれし お兼が噂高足駄 まだ男には近江路や 
晒し盥の誰がなぶらうと 恋ぢゃいや恋ぢゃいや 角力でならば 相手選ばず渡り合ひ 
ありゃりゃ ありゃりゃ よいやさ 四つに抱かれて手事とやらで ふたりしっぽり汗かいて 
投げの情の取組が 面白からでは ないかいな 力だめしの曲持は 石でもごんせ 俵でも 
御座れ御座れにさし切って 五十五貫は何んのその 中の字きめし若衆も 女子にゃ出さぬ力瘤 
ほんにほうやれ 逢ふ夜はをかし 折を三上の文さへ人目 関の清水に心は濡れて 
今宵堅田に老蘇の森と 返事信楽待たせておいて まだな事ぢゃと心で笑ひ 嘘を筑摩の仇憎らしい 
更けて今頃三井寺は 何処の田上と寝くさって 夢醒ヶ井の鳥籠の山 こちは矢橋の一と筋に 
ほんに粟津のかこち言 思ひ大津は初秋に 鏡の宿の盆踊 天の川星の契りも岩橋の 
明くるわびしき葛城の 神ならぬ身は末かけて よいやなよいやな 誓紙の上も鵲の 
橋占に立つ笛竹も 一節切とは聞くつらさ 八声の鶏にせかれては よいやなよいやな 
たきもの姫の移り香を 寝衣ながらの起き別れ よいやなよいやな 笹の一と夜を縁結び 
野路の玉川萩越えて 色ある水に晒し野や 晒して振りを見せまゐらせう 晒して振りを見せまゐらせう 
立つ浪が 立つ浪が 膳所の網代にさへられて 流るる水を堰止よ 堰止よ 
さっさ車の輪が切れて 何れ思ひは どなたにも 
晒す細布手にくるくると さらす細布手にくるくると いざや帰らん賤が庵へ