猿  舞
文政二年(1819)十一月

作曲 四代目 杵屋六三郎
〈本調子〉 
猿が参りて此方の御知行 ま猿目出度き能仕る 踊るが手元及びなき 
水の月取る猿沢の 池のさざ浪悠々たり 指手引手の末広や 月にたとへし止観の窓 
此方のお庭を見あぐれば 片われ月は宵の程 可愛可愛とさよえ だましておいて 松の葉越の月見れば 
暫し曇りてまた冴ゆる あすは出やうずもの 舟が出やうずもの 思たげもなくおよる君よの 
船の中には何とおよるぞ 苫を敷寝の楫枕 晩の泊りは御油赤坂に 吉田通ればナア 
二階から招く しかも鹿の子の振袖が 奴島田に丈長掛けて 先のが品やる振込めさ 
手際見事に投草履 ありゃんりゃりゃ こりゃんりゃりゃ 粋な目元に転りとせ 仇物め 
留めて止まらぬ 恋の道馬場先のきゃれ 色めく飾りの伊達道具 昔模様の派手奴 
これかまはぬの始めなり まりの庭にも猿の神 厩の猿の馬れき神 猿と獅子とは文殊の詩宿 
時しも開く冬牡丹 花の富貴の色見えて 栄ふる御代とぞ祝しける