蜘蛛拍子舞
天明元年(1781)十一月
作詞 初代 桜田治助
作曲 初代 杵屋佐吉
〈本調子〉 
それより代々の 帝に至り 伝はる鍛冶の道広く 天国天座神息が 太平地国の霊験に 治むる御代の神宝

〈三下り〉 
千早振りにし昔より 恋に片羽の片思ひ 浮き寝の鳥も寝覚して 
氷にうつる剱刃は 冴えた中子とよい金性を 枕詞に真金吹く 
吉備の中山なかなかに 千束にあまる文ならで 留めて留木の移り香も 昨日の夢を袖だたみ 
二人寝る夜は風いとふ 屏風にかけし誓ひごと 結ぶの神へ参らせ候の水草に 
ひぞりながらも夜着きせて 宵の笑ひは暁の 涙の露の起き別れ 

〈本調子〉 
謹上再拝再拝 鞴は陰陽和合をかたどり 五行五体をかための槌 文の直ぐ焼武の乱れ 文武二道は二柱 
[拍子舞]

花の姿を垣間見に ひがきやすりは天がい重俊 扨薙刀は当麻の少将 金剛正枝 力王一王 
これ等は名に負ふ大和鍛冶 利剣宝剣名作名物 六百九十四振りなり 九十四振りは九十九夜 
ある夜その夜の廓通ひ 色に乱れし業物と 名乗って和泉の 加賀四郎 扨又相模の新造五郎 
新造五人引き連れて 紋日物日は月参り 月山もり房くも頭 初ゆき平を眺めんと 
猪牙で長船 四つ手に則宗 やうやう三条宗近と 客は女郎に寸延びて 余所で口舌を島田の吉助 
座敷も新身の付焼刃 文殊四郎の知恵かって 内外の手前を兼光が 
まだ居続けはさりとは長光大酒に 青江の四郎が捻じ上戸 ちょっと助光一文字 
腹立上戸は 仁王三郎 相手に長門の左り利 左文字や方々よ 左文字や方々よ 
あいと石見の酒盛綱 心安綱 友成が 君万歳とぞ 打たりける

〈三下り〉
打納まりし床の山 しめて音じめの一筋に 様に逢ふ夜は月影に 丸にいの字を結ひ綿に 
重ね扇の比翼紋 離れぬ仲ぢゃないかいな さいなそんれもよう言うた さいなそんれもよう言うた 
様と一夜の契りさへ 笹竜胆に抱き柏 誰が睦言を菊蝶の 離れぬ仲ぢゃないかいな 
さいなそんれもよう言うた さいなそんれもよう言うた 離れぬ仲のかこち言

〈本調子〉 
不思議や火炎烈々と 空中に翩飜し 落つると思えば忽ちに 身はささがにのいと凄さ 
一人六臂のその姿 朧が中に立ち迷ふ 
[鼓唄] 

我背子が来べき宵なりささがにの 蜘蛛の振舞かねて知る 我身の上ぞやる瀬なや 
葛城山に年を経し 世にも名を知る女郎蜘蛛 尽きぬ怨みの心のさびや 怨念力の張弓に 
射て落されん連理の枝 嗔恚邪慳の斧鉞 打ち立て打ち立て しっていてい 
伐木どうどう どうどうどう 枝も梢も 打ち切り打ち切り 打ち折り打ち折り 打ち払ひ 
魔道に沈んで浮む瀬もなき我が眷属 長きやっことせんものと 又引立つれば恐しや 
渦巻く炎漲る白浪 庭の梢もさっさっさっ 池の水音どうどうどう 
天地反つて逆のぼり 高天砕けて落つると見れば 猛火盛に燃え上り 電光激してはたた神 
凄じかりける 凄じかりける次第なり