木 賊 刈
寛政九年(1797)八月

作曲 初代 杵屋正次郎
[謡] 
面白や 梢はいづれ一葉散る 嵐や音を残すらん 

[前弾]〈三下り〉 
木賊刈る 園原山の木の間より 磨かれ出づる秋の月 露分け衣袖ぬれて 
男鹿鳴く野の行末と 夫れは信濃路我は又 老を養ふ楽しみに 心を磨く種にもと 
いざや木賊を刈らうよ 今宵の月を友として 昔話の独り笑み
[鼓唄]
昔昔 爺と婆があったとさ 爺は山へ柴刈に 婆は川へ洗濯に 互に後を見送りて 山と川へぞ出でらるる 
婆は尾上を見やりつつ 北山おろしの烈しくて さぞ寒からういとしやと 我身よりなほ爺殿の 
身の上思ふ諸白髪 打連れて 急ぎ行く 
おらが元気はな 若い者にも いっかないっかな めったにゃ負けぬ 
九十九折なる えりくりえんじょの山路なりと いっかないっかな 滅多にゃ負けぬ 
九十九折なる えりくりえんじょの山路なりと 脚はしっかり腰を反らして杖いらぬ 浮世語となりにけり