初しぐれ
天保十年(1839)

作曲 十代目 杵屋六左衛門
〈本調子〉 
楢松の葉の落ちそめて 夕暮白き待乳山 
時雨しぐれに 啼く鴫の 声も凍るや干潟道 衣紋坂越えて 鐘の音

〈二上り〉 
それは上野か浅草か 塒急ぎて通ひ来る 阿呆鴉が笑はうとままよ エエおかしゃんせ 
可愛かわいと引きしめて 互ひに肌をぬくめ鳥 
鴛鴦の衾に思ひ寝の 室の初花下紐解けて それから結ぶ夢見草 露の情をいたづらな 誰か悋気に吹き払ふ
[合方] 憎や櫺子に誘ふ夜あらし