相生獅子
享保十九年(1734)
作詞 不明
作曲 七代目 杵屋喜三郎
〈三下り〉
花飛び蝶驚けども人知らず 
我も迷ふや様々の 四季折々の戯れは その物事にあはれなり 蝶や胡蝶のせめて暫しは手に止まれ
見返れば花に紛れて 見えつ隠れついろいろの 姿やさしき夏木立
心尽しのな この年月をえ 何時か思ひの晴るるやら 心一とつに余るやら よしや世の中
花に戯れ枝に臥し 男獅子女獅子のあなたへひらり こなたへひらり ひらりひらりと舞ひ遊ぶ
八識九識の奮迅の乱拍子は それで我々も 心乱れて足もたまらず 
瀧の音は泥犁も白浪の 虚空を渡るが如くなり 
夏の夕暮に 山々を見渡せば 折しも松風に 青葉涼しく吹き誘ふ はらはらはつと鳥の群れ居るは
時もこそあれ一入 扨も面白や 又は時鳥 垣根に結ふ卯の花や 牡丹芍薬あつちりなこつちりな 
あつちりこつちり すぢりもぢりて ゑりくりえんじよの奥山の蔭に 恋と云ふ物は誰も知る物を
惨やの何物か 月も傾くほのぼの鐘の つらや恨めし別れやまさる 涙玉散る朝ぼらけ 
心がらなる身の憂さを やんれそれはそれはえ 誠憂やつらやつらや 思ひまはせば昔なり
牡丹に戯れ獅子の曲 げに石橋の有様は 笙歌の花ふり 簫笛琴箜篌 
夕日の雲に聞こゆべき 目前の奇特あらたなり 暫く待たせ給へや 影向の時節も今幾程に よも過ぎじ
獅子団乱旋の舞楽のみぎん 牡丹の英香ひ満ちみち 大巾利巾の獅子頭 打てや囃せや牡丹芳 牡丹芳
黄金の蘂あらわれて 花に戯れ枝に臥しまろび
実にも上なき獅子王の勢ひ 靡かぬ草木もなき時なれや 
万歳千秋と舞ひ納め 万歳千秋と舞ひをさめ 獅子の座にこそなほりけれ