外 記 猿
文政七年(1824)七月

作曲 四代目 杵屋三郎助(後の十代目六左衛門)
[辻打・前弾]〈本調子〉
罷り出でたる某は ずんど気軽な風雅者 日がな一日小猿を背に背負からげてな 姿如法やなん投頭巾 
夜さの泊りは どこが泊りぞ 那波か名越か 室が泊りぞ 室が泊まりぞ 泊りを急ぐ後より 
小猿廻はせや猿廻し オオイオオイ と招かれて 立帰りたる半町あまり 
玄関構へし門の内 女中子供衆取々に 所望所望の言葉の下 猿の小舞を始めけり 
ヤンラ目出度や目出度やな 君が齢は長生殿の 不老門の御前を見れば 黄金の花が咲きや乱るる 
咲きや乱るる 旦那の御前でお辞儀をせ 転りとせ 転りやころりや やつ転りと 
子持寝姿御目にかけや さっても粋な品者め 

これは浪花にその名も高き 河原橋とや油屋の 一人娘におそめとて いとけなきより手習ひを 
内の子飼の久松と ともに学びのおこたらぬ 中をよそめの仇口に サア浮名の立つは絵双紙へ 
松の葉越しの月見れば 暫し曇りて又冴ゆる 月は片割宵の程 船の中には何とおよるぞ 
苫を敷寝の楫枕 ひんだの踊りは一と踊り

〈二上り〉
皐月五月雨 苗代水に 裾や袂を濡らしてしょんぼりしょんぼりと 植ゑい植ゑい早乙女

〈本調子〉
実に面白や踊るが手元 辰巳午や春の小馬が 鼻を揃へて参りたり 鼻を揃へて参りたり

〈二上り〉
猿に烏帽子を着せ参らせて 猿に烏帽子を着せ参らせて 
勇む神馬の手網取らせう 手網取らせう のんほのいよえ 

〈本調子〉 
一の幣立て二の幣立て 猿は山王勝る目出度き 目出度き 
獅子と申すはすみすみすみすみすみすみ 住吉八幡 普賢文殊の召されたる 
猿と獅子とは御しゅしょのもの 
あれ音楽の声 諸法実相と響き申せば 地より泉が増生して 天より宝が降り下る なお 千秋や万才と 
俵を重ね面々に 楽しうなるこそ目出度けれ 楽しうなるこそ目出度けれ


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一般に「外記猿」と呼ばれるこの曲は、正式には「外記節 猿」。
長らく絶えていた外記節の曲調を取り入れてつくられた外記節三部作のひとつです。
小猿を背負った猿引(猿回し)の登場に続き、小猿がさまざまな芸を披露します。
唄われる詞章の一部は、狂言「靭猿」からの引用と思われます。
狂言「靭猿」を元にした長唄には他に「靭猿」がありますが、
こちらでは話の主筋に重きがおかれ、猿芸のくだりは縮小されています。
話の筋は「靭猿」に、猿芸は「外記猿」にと、
ひとつの狂言が複数の長唄に分化して伝えられていったと考えられ、興味深いところです。
「外記猿」の詞や曲調には、外記節や狂言の他にも実に多様な古唄や芸能がひかれており、
作者の並々ならぬ研究姿勢がうかがえます。
かわいらしい小猿を案内役に、古典芸能の玉手箱のような世界を楽しんでください。

【こんなカンジで読んでみました】
さてさて、ここに参上いたしました私は、何とも気軽な旅の猿引でござい。
……



■「外記猿」の解説・現代語訳・語句注釈のつづきは、

『長唄の世界へようこそ 読んで味わう、長唄入門』(細谷朋子著、春風社刊)

に収録されています。
詳しくは【長唄メモ】トップページをご覧ください。