ことぶき
年代及び作者不明


〈三下り〉
ことぶきの 鶴と亀との 齢経て 変はらぬ色は常盤なる 松と竹との 末かけて 契りも深き 相生の 
栄久しき 共白髪


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■下調べ
「ことぶき」

 ごく短いめりやす*で、長寿・夫婦の契りの深さをことほぐ唄です。
「鶴と亀」、「松と竹」はどちらも対で用いられることが多く、それぞれ長寿・繁栄の象徴です。「相生」は本来別々のものが一つのものとして生まれ育つことで、夫婦が深い契りで結ばれてともに長生きすることを意味します。謡曲「高砂」に登場する「相生の松」が有名です。

*めりやす 歌舞伎下座音楽の一つで、役者が思い入れなど台詞なしでの仕草を長く続けるときに、情趣を添えるために演奏されるもの。本来は芝居の下座音楽として生まれたが、後に芝居から離れた素の唄いものとしてもつくられた。


【語句の意味】
ことぶき 1.慶事をことばで祝うこと。言祝(ことほ)(ことほ)ぐこと。2.いのち・よわい、また命の長いこと、長寿なこと。3.めでたいこと。 ここでは2.の意。

鶴と亀 古来長寿を保つ動物としてめでたいものとされる。

常盤 (本来は「常盤(とこいわ)」=永遠に変わらない大岩の意)1.つねに変わらないこと。永久不変。2.樹木の葉が一年中緑であること。常緑樹のこと。 ここでは2.の意。

松 古くから神の宿る木とされ、長寿・繁栄・慶事・節操を表すものとして尊ばれた。多種あるが、ほとんどは葉が複数(2~5本)束になっており、一般的なアカマツ・クロマツの葉が2本で1つであることから、夫婦和合の象徴ともされた。

契り 1.約束。前世からの約束。宿縁。2.結びつき。因縁。夫婦・男女の縁。 ここでは2.の意。

相生 一つの根から二本の幹が相接して生え出ること。二つのものがともどもに生まれ育つこと。ともに年老いていく、という意の「相老い」にかける。

共白髪 夫婦ともに白髪になるまで長生きすること。


【成立について】
 成立年・作詞・作曲 不明。
『長唄全集 下巻』〔中内蝶二・田村西男編、昭和三年(1928)八月、日本音曲全集刊行会〕、「壽」の項の解説には「この曲は、子供の手ほどきに用ひるめりやす物で、嘉永六年三月、初代杵屋六翁の作曲である。」とあるが、これは同名の別曲との誤りと思われる。


【こんなカンジで読んでみました】 
 長寿の鶴と亀は年月が過ぎても変わらない、色あせることなく青々と茂る松と竹の末までも、一緒に歳を重ねて夫婦の縁を生きていきましょう、幸せな日々が長く長く続いて、お互い白髪のおじいちゃんおばあちゃんになるまで。


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【鉄九郎の思い】
僕のお稽古場に通いはじめて最初に教える曲は「さくら」。
♪さくらーさくらー弥生のそーらーはーー
ってやつね。
最近じゃ知らない子どもがいるなんてことも聞きます。
でもね、大抵知ってるでしょ。
だからこの曲から教えてます、簡単だし。
そして「さくらむが弾けるようになったらいよいよ長唄を教えるわけです。
その時に登場するのが「ことぶき」。
一番短い長唄だし、手の動きが楽だし。

一度だけ舞踊を観たことがあります。
厳かでとても良い感じでした。
「めりやす」といいますが、手の付け方の自然さ、音の自然さ、つまりなんていうのかな、「なんでもない曲」なんですよね。ただその「なんでもない」ってのがすごいことですね。