松 の 緑
安政頃か

作曲 初代 杵屋六翁(前の四代目六三郎)
〈本調子〉 
今年より 千たび迎ふる春ごとに なおも深めに 松の緑か禿の名ある 
二葉の色に 大夫の風の吹き通ふ 松の位の外八文字 派手を見せたる蹴出し褄 
よう似た松の根上がりも 一つ囲ひの籬にもるる 廓は根引きの別世界 
世々の誠と裏表 比べごしなる筒井筒 振分け髪もいつしかに 
老いとなるまで末広を 開き初めたる 名こそ祝せめ 


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「勧進帳」「吾妻八景」などを作曲した大家・四代目杵屋六三郎が、
自分の娘の襲名披露につくった名披露目の祝儀曲と伝えられています。
松は繁栄の象徴としても長唄の歌詞によく登場しますが、
「松の緑」とは、「将来は松の位の太夫になるべきものの芽生え」という意味で、
吉原の禿を指す言葉です。
吉原の禿にことよせて、自分の娘が芸道の極みにまで昇れるようにとの願いを唄い、
その門出を祝っています。
娘の襲名のお祝いに遊郭を舞台とした唄をつくったのは、六三郎が吉原に耽溺していたからとも、
当時の音曲は遊郭に関連したものが専ら喜ばれたからとも伝えられます。
同じ六三郎の「俄獅子」などと合わせて考えると面白いところです。



【こんなカンジで読んでみました】

今この時から幾たびも春を迎え、春を迎えるごとに色を深める、松の緑の美しさよ。
末の栄えを約束された禿のことを、「松の緑」とはよく言ったものだ。……



■「松の緑」の解説・現代語訳・語句注釈のつづきは、

『長唄の世界へようこそ 読んで味わう、長唄入門』(細谷朋子著、春風社刊)

に収録されています。
詳しくは【長唄メモ】トップページをご覧ください。