宵は待ち
年代及び作者不明


〈三下り〉
 宵は待ち そして恨みて 暁の 別れの鶏と 皆人の 憎まれ口な あれ鳴くわいな 
聞かせともなき 耳に手を 鐘は上野か浅草か


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「明けの鐘(宵は待ち)」

 めりやす(「ことぶき」の項参照)。
曲名は「明けの鐘」ですが、唄いだしの文句をとって「宵は待ち」と呼ばれることもあります。
恋しい男性の訪れを待ち侘び、後朝(きぬぎぬ)の別れを急かす鶏の声を恨む女性の心を唄った曲です。最後の「鐘は上野か浅草か」は、つまり「鐘の音がどこから聞こえてくるか分からない」という意味になります。元になった芭蕉の句では「花の雲に隠されて鐘がどこから聞こえてくるのか分からない」といったのどかな春の情景ですが、この唄で鐘の音の出所が分からないのは、まだ薄暗い閨(ねや)にこもっているからでしょうか。
 簡単な手付けなので初心者や子供の手ほどきに使われる曲ですが、上記のように歌詞が余りにも艶っぽいため、明治の末頃には改訂歌詞ができました(【歌詞について】参照)。


■「宵は待ち」の解説・現代語訳・語句注釈のつづきは、

『長唄の世界へようこそ 読んで味わう、長唄入門』(細谷朋子著、春風社刊)

に収録されています。
詳しくは【長唄メモ】トップページをご覧ください。




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【鉄九郎の思い】
ウチ(鉄九郎稽古場)では「ことぶき」の次に教える曲。
だけど僕は最初にこの曲から習ったような気がする。
「ことぶき」は教わらなかったな、たしか。
ともあれ、ウチは「ことぶき」「宵はまち」「黒髪」「松の緑」の順に教えています。

舞踊会では「羽根のかむろ」の中に入れ事としてはいることが多いですね。
四挺四枚で演奏しているとすると、「宵はまち」のところは、タテとワキだけで弾くことがあります。
つまり三枚目と四枚目は三味線置いて休んでいるわけです。
四枚目くらいで弾いてる時、「早く『宵はまち』が弾けるポジションに行きたいな」と思っていましたね。
そんな思い出のある曲です。