菖蒲浴衣
安政六年(1859)五月

作曲 二代目 杵屋勝三郎 三代目 杵屋正次郎
〈本調子〉 
五月雨や 傘につけたる小人形 晋子が吟もまのあたり 己が換名を市中の 
四方の諸君へ売り弘む 拙き業を身に重き 飾り兜の面影うつす 皐月の鏡曇りなき 
梛の二た葉の床しさは 今日の晴着に風薫る 菖蒲浴衣の白襲ね 表は縹紫に 
裏むらさきの朱奪ふ 紅もまた重ぬるとかや 
それは端午の辻が花五とこ紋のかげひなた 暑さに

〈二上り〉 
つくる雲の峯 散らして果は筑波根の 遠山夕ぐれ茂り枝を 脱いで着替の染浴衣
古代模様のよしながき 御所染千弥忍ぶ摺り 小太夫鹿の子友禅の おぼろに船の

〈三下り〉 
青簾 河風肌にしみじみと 汗に濡れたるはれ浴衣(まくらがみ) 
鬢のほつれを簪の 届かぬ愚痴も好いた(惚れた)同士 
命と腕に堀切の 水に色ある花あやめ 
弾く三味線の糸柳 縺れを結ぶ盃の 行末広の菖蒲酒 これ百薬の長なれや 
めぐる盃数々も 酌めや酌め酌め尽きしなき 酒の泉の芳村と 栄ふる家こそ目出度けれ

(歌詞は文化譜により、表記を一部改めた)



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ここに「菖蒲浴衣」のほんの一部をYouTubeで紹介しています 見られない方はこちらへ

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「岸の柳」(http://www.tetsukuro.net/nagautaed.php?q=3)と並んで、夏を代表する長唄のひとつです。
飾り兜・雲の峯・河風・花あやめといった初夏を感じさせる言葉とともに、
着物・染物に関する言葉がたくさん詠み込まれていて、呉服づくしになっているのが面白いところです。
大正から昭和の長唄解説本では、芳沢あやめという歌舞伎俳優好みの浴衣を売り出すにあたっての
広告長唄と言われてきました。
しかし近年の研究では、それは誤りとされています。
呉服関係の言葉が多いのは、呉服屋が、本曲発表の場であった芳村伊三郎の襲名披露の
スポンサーについたからだと言われています。
他にも、歌詞の裏には伊三郎と作曲者・杵屋勝三郎の仲直りがあったともいい、
エピソードを知ることで唄の世界が広がる曲です。



【こんなカンジで読んでみました】

其角の有名な発句に「五月雨や 傘につけたる小人形」というのがあるが、
今年もそんな風景を見られる季節になったなあ。
襲名披露を迎え、お前は新しい自分の名前を世間の皆さんに知っていただかなくちゃならない。
俺もお前も、まだまだ上等な芸とは言えないよ。
まずはそのことを、しっかりその身に受け止めることだ。
あすこに飾ってある兜のようにどっしり重たい心持ちになるだろうが、心配するには及ばない。
その兜を写している鏡をみてごらん。……


■「菖蒲浴衣」の解説・現代語訳・語句注釈のつづきは、

『長唄の世界へようこそ 読んで味わう、長唄入門』(細谷朋子著、春風社刊)

に収録されています。
詳しくは【長唄メモ】トップページをご覧ください。