軒端の松
弘化二年(1845)四月

作曲 二代目 杵屋勝三郎
[前弾]〈本調子〉 
伝へ聞く太白が 軒端の松の深緑 ここにうつして盃に 酌むや千歳の竹の露 
げに面白き酒宴かな 盛りなる 花に酔ふとは春の空 何時とも分かぬ若葉時 
山時鳥待つ夜にも 淋しさ知らぬ酒機嫌 ささの一夜を七夕の 逢瀬嬉しき川浪に 
濡れと言われて嬲られて あア恥かしの初紅葉 妻恋ふ鹿の鳴かぬ日も 積れば積もる 雪見酒 
四季折々の楽しみは 離れぬ仲ぢゃないかいな 面白や 

〈二上り〉 
一筋な 女心を汲みもせで ほんに浮気な男山 つい言ふこともつとどなき 
言葉に角の剣菱や 愛想もこそも七つ梅 粋な心についたらされて 嘘と知りても真実に受けて 
末は白菊花筏 よしや世の中 花ごころ 神酒と聞く 神酒と聞く 名もことわりや万代も 
尽きせぬ宿に湧き出づる 泉絶えせじ養老の 瀧の流れの濁りなき 
ためしをここに引く糸の 調べも共に永く栄えん