春  秋
明治三十六年(1903)八月
作詞 如蓮居士
作曲 五代目 杵屋勘五郎
桜花の巻は風の曲

〈本調子〉 
弥生半ばの空うららかに 野辺も山路も時めきて げにのどかなる春の色 
佐保姫が霞かけたる薄衣は 空さえ花に酔ひ心 
尽きぬ眺めに分け行けば 木の間に遊ぶ 百千鳥 春の小唄や唄ふらん

〈一下り〉
[嵐の曲]

折しもさっと吹く風に 水なき空へ立つ浪の また吹き下す雪の庭
[風の曲]
蝶も戯れて ひらひらひら ともに浮かれつ 立ち舞へる 
手毎にかざす花の枝 あかぬ色なる春のたそがれ


紅葉の巻は雨の曲

〈二上り〉 
薗生の垣に香をとむる 菊の葉露もいつしかに おのづからなる秋の色 
手染めの糸の龍田姫 織り出す錦くさぐさに 人の心のなびくまで 
見ゆる姿の 優しさも 旗手の雲のいと早く 

〈三下り〉 
時雨降るなりさらさらさら
[雨の曲]
濡れて色増す紅葉ばの 数は八汐か九重の 十二単衣の紅と 
数へ数へて幾汐か 雨に風情もいと深き 秋の名残を眺むならまし