大 原 女
文化七年(1810)八月
作詞 二代目 瀬川如皐
作曲 九代目 杵屋六左衛門
〈三下り〉 
わしが在所は風雅に出でて むくつけに寝まるべいと 語らふならば 
嬉し甘露の 桃や柿がぶらさがり 九十九疋の意地悪猿に おっ立てられても笑はれても 
根こんず惚れたが性根ぢゃえ 黒木買はんせ黒木召せ 恋には八瀬の里育ち 軒の簾の床しさは 
玉だれ髪を取上げて 誰に見せうとて夕化粧 わしが器量は賞めもせで 姿がよいの生際が 
宵の口舌に無理なひぞり言 わしほど優れた女子をば 嫌ふお前の気が知れぬ 気が知れぬ 
エエ女子冥利が尽きやうぞえ 機嫌直して君と我 倶に落ちよもの我が里を 兎角思ふ様になア 
浮世がならば 可愛 殿御と野の末までも 糸も繰ります機織虫よ 
誰を松虫焦がれてすだく つづれさせてふ馬追虫の 長き夜すがを鳴き明かす 
誰を松虫焦がれてすだく つづれさせてふ馬追虫の 長き夜すがを鳴き明かす
草葉にすだく鈴虫の ふるやふる野の [槍踊合方]

〈二上り〉 
振りやれお振りやれ 剽軽男の 又とない又とない一代奴 
ありゃんりゃりゃ こりゃんりゃりゃ 何でもせ 国で評判男山 御国境の松の木の下り枝 
あぶないあぶない お腰をかがめて お腰をかがめて 振れやれ振れやれ 其の月雪や花の槍 
見事にさ 開いてさ 見事に開いた振りもよし ひかば靡かん松の木越よ 
振れさ 振れさ 振れ振れ振れ お先揃えて殿はしょち入り [手踊合方]

だめな事ばし言わしゃるな 明日は関東さへ まかるべいちゃな やれさてナ 
主さ別れちゃなア 伊勢路へ あんちうちくだ ふん抜きやるさア 池のどん亀なら むんぐるべいとは 
ヤレサテ実だんべい 実だんべい いけすか女郎衆の旅立さ 主さ別れちゃアなア 伊勢路へ 
あんちうちくだ ふん抜きやるさア 池のどん亀なら むんぐるべいとは 
実だんべい 実だんべい 掛け奉る宝前に 名筆名画の徳は目前 今目の前に 外に中村人のやまやま