傀 儡 子
文化十二年(1815)か

作曲 四代目 杵屋三郎助(後の十代目六左衛門)
〈本調子〉 
浮世の業や西の海 汐の蛭子の里広く 国々修行の傀儡師 連に離れて雪の下 
椿にならぶ青柳の 雫も軽き春雨に 楽屋を冠り通るにぞ 塀構へなる窓の内 
呼びかけられて床しくも 立止まれば麗しき 女中の声にて傀儡師 一曲舞はせと望まれし 
詞の下より取あへず 声悪しけれど箱鼓 拍子とりどり人形を 
あまた出だして夫々と 唄ひけるこそをかしけれ

〈二上り〉 
小倉の野辺の一本薄 何時か穂に出て尾花とならば 露が嫉まん恋草の 
積り積りて足曳の 山猫の尾のながながと 独かも寝ん淋しさに

〈本調子〉 
ゆふべ迎へし花嫁様は 鎌もよく切れ千草も靡く 心よさそなかみさまぢゃ 
おらが女房を誉るぢゃないが 物もよく縫ひ機も織り候 綾や錦や金襴緞子 折々事の睦言に 
三人持ちし子宝の 総領息子は鷹揚にて 父の前でも懐手 物を云うても返事せず 
二番息子は背高く 三番息子は悪戯にて 悪さ盛の六ツ七ツ 中でいとしき血の余り 
肩に打乗せて都の名所 廻れ廻れ風車 張子鞨鼓や振鼓 手に持って遊べさ

〈三下り〉 
花が見たくば吉野へ御座れ 今は吉野の花盛 よいさよいさ花盛 花笠着つれしゃなしゃなと

〈本調子〉 
このはしたは吸筒を 袂に巻きてから玉や つい明らけき天津空 
桜曇に今日の日も 桜曇りに今日の日も 呉羽綾羽のとりどりに 呉羽綾羽のとりどりの貢物 
供ふる御代こそ目出度けれと 箱の内にぞ納めける