狂乱雲井袖
天明四年(1784)十一月
作詞 初代 瀬川如皐か
作曲 初代 杵屋正次郎
[前弾・鼓唄] 
いざさらば ありし雲井の花の袖 思へばかかる執着の

〈二上り〉 
定家葛の離れぬ仲を 隔てられてもそもやそも 思ひ出すとは忘るるからよ 
何の忘れうぞ いたいけ盛り さてもさても和御寮は 踊る振が見たいか 踊る振が見たくば 
北嵯峨へ御座れの 北嵯峨の踊は 対の帽子をしゃんと着て 踊る振がよいとの 
吉野初瀬の花よりも 紅葉よりも 君が面影うつつにも 夢にも見たや 懐かしや 
古りにし事を聞くからに 比翼連理の契りさへ 花に嵐の情なや 更に別れの無かりせば 
千代も人には添ひてまし よしや草葉に忍ぶとも 色にぞ出でし 我が恨み 千草も冬枯れて 
雲の彼方に春や来て 風に散り飛ぶ雪の花 ちりやちりぢり漂ふ 君が袂に積もるも嬉し 
千々に心も乱れて 恋しや昔ゆかしやと 彼方へ走り此方を慕ひ 別れの床の台ぞと 人目もわかず伏し転ぶ