日本の楽器は「唱歌(しょうが)」という方法で音楽の伝承をしてきました。唱歌とは「楽器が何としゃべっているか」という視点で、音色・リズムパターン・音の高さを日本語に置き換えた擬声語のようなものです。
三味線では、唱歌のことを特に「口三味線」といいます。口三味線は音色を表現しているので、同時に奏法も含んでいることになります。弾いた音とバチですくった音では、音の高さは同じでも音色が違います。口三味線では、例えば、一の糸を弾いた音をドンといい、バチですくうとロンとなります。
演奏者によって多少の違いがあったり、言いやすいように変化させることもありますが、主なものは下表のとおりです。
奏法 | 糸 | 一の糸 | 二の糸 | 三の糸 |
放した音 (開放弦) | 弾いた音 | ドン | トン | テン |
すくい・はじき | ロン | ロン | レン | |
押さえた音 | 弾いた音 | ツン(ヅン) | ツン | チン |
すくい・はじき | ルン | ルン | リン |
三味線音楽には、虫の声を模した部分があります。左手は三の糸の同じ勘所を押さえたままで「弾く・弾く・すくう・はじく」と弾きます。音の高さだけでいえば「ソーソソソ」や「ミーミミミ」なのですが、口三味線では「チンチリリン」となります。三味線が音色の組み合わせで意味のある旋律を表現できるのをよく表しています。
三味線の記譜法には、勘所を数字や文字で表した譜、階名を数字で表した譜などがあり、一例は下記のとおりです。
勘所で表した譜‥‥三味線文化譜(赤譜)・タテ書ワク式三弦譜・朱(義太夫等の譜)
階名を数字で表した譜‥‥小十郎譜(研精会譜)・弥之介譜(青柳譜)
西洋音楽で使われている楽譜の流用‥‥五線譜
三味線音楽を表現するには、勘所で表した譜が便利で、最も多く用いられています。
【三味線文化譜】
四世杵家彌七師考案の譜で、その譜本の表紙の色から、通称赤譜と呼ばれています。
勘所を表す数字は各弦共通で、開放弦を0とし、棹の上部から123と番号順の算用数字で表します。三味線の3本の糸に見立てた3線上に勘所の数字を記し、縦線で4分の2拍子に拍子割されています。
調弦に関係なく、奏法が一目で解る横書きの譜です。
【小十郎譜】
吉住小十郎師考案の譜で、研精会譜ともいいます。
五線譜の音符(ドレミ)を算用数字(123)に置き換え、三味線の音を階名で表した縦書きの譜です。
全ての調子において、一の糸の開放弦をシとして、ハ長調で表記します。音符は、音を1234567(ドレミファソラシ)の数字とします。これに各々の派生音を加えて、各音程を半音ずつ配列すると ・7 1 #1 2 #2 3 4 #4 5 #5 6 ♭7の12個となります。更に、オクターブ上の音には、数字の右側に・を付けて 1・ #1・ とし、2オクターブ上の音を 1・・ #1・・と記します。(数字の左側の・は、オクターブ下の音を示します。)
必要に応じて、糸をⅠⅡⅢの記号で区別します。
【弥之介譜】
杵屋弥之介師考案の譜で、青柳譜ともいいます。
小十郎譜と原則は同じです。違いは、糸の指定に記号を用いるのではなく、三味線の糸をそのまま縦の3本線としてその線上に数字を配している点です。
各譜の勘所の表し方を対照してみましょう。小十郎譜・弥之介譜は、調子によって異なるので、ここでは本調子の場合をあげておきます。
勘所は、糸が振動する上駒から駒まで(通常2尺6寸)の間を割り振ったもので、駒の位置や高さによって多少変動します。上記の勘所の位置は、目安とお考え下さい。
下記の譜は、長唄「越後獅子」の晒しの合方の一部分です。